日本の石油化学業界の現状(若月 保)

 時節柄、イラン戦争の日本の石油化学(略して石化)業界への影響と現状を、筆者の知識・経験に基づきまとめてみた。

 化学・化学製品は、一般の人にとっては非常にわかり難いものである。固体や液体が一瞬にして気体になったり、複数の異なった物質が別の物質に変わったりする。また、ある製品を造る方法はいくつもあり、有毒または危険物原料を避けるために、製造設備は改良され、歴史的にも大きく変化してきている。

 

石化製品とは何か

 石化製品には、プラスチック(ペレット)やゴムがあり、プラスチックから合成繊維、フィルム、成形品(自動車部品等)に二次加工される。

 主要製品としては、5大樹脂(高密度及び低密度ポリエチレン、塩化ビニルポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレンの5種類)、ブタジエン、BTXと称されるベンゼン・トルエン・キシレン、さらにエンジニアリングプラスチックと呼ばれるポリカーボネートPC、ポリメチルメタクリレートPMMA、それにウレタンの原料となるイソシアネート類がある。ポリマーはそれぞれのモノマーを重合させて製造し、ブタジエンは樹脂や合成ゴム(自動車のタイヤ等)の原料となる。PC、PMMA、イソシアネートの生産量は、他の主要製品ほど多くはないが付加価値は高い。

 

原料ナフサと供給への懸念

 モノマーの多くは、最近よく聞かれるナフサを熱分解して造る。ナフサは、石油を精製(蒸留操作)してガソリン、軽油などと一緒に生産される。ナフサからエチレン25~31重量%、プロピレン12~16%、ブタジエン4~5%、BTX 10~13%が得られる。ナフサは隣接する精製所から石化会社に、パイプライン経由で供給されるが、不足分はナフサの形で輸入することもある。

 イラン戦争下で石油やナフサが足りなくなる可能性がある、という懸念がある。石油(原油)の性状が生産地により異なることがしばしば言われるが、その違いにより蒸留操作条件の検討が必要であることが問題の本質である。

 政治家は、「サプライチェーンの目詰まり」という言い方をするが、必ずしも途中で停滞しているのではなく、何らかの原因で生産する品目銘柄自身が変わることもあり得るため、下流製品の生産量が変わり得る。韓国のように、国民に節約の重要性をもっと説くべきである。

 

縮小する国内設備と日本企業の姿

 

 現在日本に12あるエチレンプラントは、2030年までに8に減る。かつては数がもっとあったが、一部プラントは廃棄されたり大型設備に更新されたりした。ただし、現状の設備稼働率は60%台であり、理想とする90%超とは大きな乖離がある。エチレンの下流製品のエチレン必要量によるが、大手のエチレン製造企業幹部は、まもなく80%に達すると強気だ。

 欧米と異なり日本の化学会社の規模は小さい。日本全体の生産量を一社で生産する巨大海外企業もある。欧米は、大規模なM&Aを経て数少ない大企業に集約した。世界一はドイツのBASF、二位は中国のSinopec、そして三位は米国のDowで、この三社が規模的に他の追随を許さない。上位20社に含まれる日本企業は、三菱化学と信越化学のみである。

 石化会社の国内順位は、三菱、旭化成、住友化学、三井化学、東ソー、クラサスケミカル(旧昭和電工-レゾナック)で、各社売上は5,000億円を超える。各社は石化の得意分野のみに集中して、長年他の複数分野を育てて来た。

 各会社の石化以外の生産分野に必ず含まれるのが、製薬と時代の先端を行く電子材料(半導体製造に関連した薬液や特殊ガス、部品材料等)である。今日では各石化会社の売上のうち、石化製品が占める割合は半分以下である。コロナ後は、脱炭素・グリーン化にも取り組んでいる。石化製品でアジアに関連会社を造った会社は多いが、世界標準は世界三極以上に展開できていることが求められ、その観点からは、ポリエチ・ポリプロ・MMAを持つ住友と塩ビを持つ信越(売上が石化上位3社と同等)が優位に立っている。石化6社は自社の得意プロセス(脱炭素も含む)を販売して、無形資産収入も得ている。しかし、鉄鋼業界などと違い、更なるM&Aによる企業統合の可能性は極めて低い

 

 

過剰生産を続ける中国という難題

 

 中国が、エチレンから下流の製品まで、いまだに製造設備をものすごい勢いで新設しているため、市場には汎用製品があふれ、販売価格は下がったままである。中国は、豊富にある石炭からも多量のエチレン、下流製品を生産しているが、CO2をまき散らしグリーンから程遠い状況にある。中国のエチレン生産量は日本の8倍以上、韓国ですら約2倍ある。主要製品設備の内、容量的に日本が韓国を凌駕しているのは、塩ビとMMAのモノマー及びポリマーの計4種のみである。日本は、多くの製品で高級な特殊品に特化したため、中国からの影響は限定的だが、韓国は業界全体が、日本もお手本にリストラ真っ只中だ。中国のなりふり構わぬ過剰生産の終息時期が、誰にも予測できないことが、業界全体の悩みである。