ここ数年、経営管理チームをはじめ様々な方面から機会をいただいて、大学の非常勤講師やセミナー講師、省エネや安全のコンサルティング…と、いろいろな活動をさせてもらっているが、私の本業は依然として某総合化学会社のプロセス技術者である。その本業の仕事の中で比較的大きな割合を占めるのが、海外関係会社の社員に対する安全技術指導だ。
昨年はマレーシア、台湾、タイ、インドネシア、シンガポールの関係会社計14社を訪問し、各社の要望に沿った内容で指導をした。テーマは、危険予知訓練、重量物取扱い方、フォークリフト作業のルール、化学物質の取扱い方、静電気火災防止、なぜなぜ分析のやり方、化学工学の基礎など様々である。講義は基本的に英語で行うが、受講者の英語力が高くない場合は、現地語に翻訳した資料を準備したり、現地の通訳を介して講義を行ったりもする。内容、やり方ともに、現地の状況に応じて臨機応変に対応するのが、私の安全技術指導のひとつのウリである。
さて、今回のコラムでは、昨年訪れた5か国で感じたことを徒然なるまま書き綴ってみたい。
マレーシアは、マレー系7割、中華系2割、インド系1割からなる多民族国家で、国民の6割がイスラム教徒である。マレーシアは世界でもっとも権力格差を重んじる国と言われている。人々は基本的に内向的で、上司の指示には素直に従うが、一方で楽観的な性分であるため、リスクの先取りを要する安全管理に関しては徹底が難しいようだ。現地の日本人工場長が、同じことを何度か注意したと愚痴をこぼしていたが、そうした国民性も関係するのだろう。繰り返し指導していくしかないと、マレーシアの関係会社からはここ数年毎年要請をもらっている。
台湾は、言わずと知れた親日国である。言語こそ中国語であるが、50年に渡る日本統治時代の影響か、その国民性は日本人に近いものがあると感じる。ただ、日本よりも女性の社会進出は進んでいるようだ。台湾で行った教育では、女性たちがグループワークをリードして、課題をまとめ上げてくれていた。
タイは、タイ族9割、国民の大多数が仏教徒である。タイは言わずと知れた「微笑みの国」。皆、陽気で明るく、接しやすい。日本好きな人が多く、現地の方との懇親会では日本のアニメの話題で盛り上がった。タイの国民性を表す言葉に「マイペンライ」があるが、これは英語で言うところのノープロブレム。おおらかで細かいことは気にしないのだ。人間関係では美徳と言えるこの精神も、こと安全管理となると少々話が違ってくる。小さな不安全を問題として捉えなければ職場の安全は向上しない。安全の基本は4S(整理・整頓・清掃・清潔)からと言うが、雑多を是とするタイの街並みを見るにつけ、安全の徹底には人一倍の苦労が要すると感じる。
インドネシアの人口は2億7千万人で、これは世界第4位に位置する。多種多様の民族からなる多民族国家で、もっとも多いジャワ人でも全体の半数には届かない。国民の9割はイスラム教徒である。宗教の影響か、人々は抑制的であり、権力格差を重んじ、個人よりも集団を重視する国民性であるが、規律に関しては軽視しがちな人が多いようである。決められたルールを順守することは安全を担保するための必須条件であり、実際この点がインドネシアで行う安全指導のひとつのテーマにもなっている。
シンガポールの国民は中華系が全体の4分の3、残りをマレー系、インド系等が占める。国土は東京23区ほどしかないが、アジアの金融・ビジネスのハブとして経済成長を遂げ、現在一人当たりGDPで世界6位、アジア1位となっている。公用語が英語であるため、我々日本人にとってはコミュニケーションが取りやすく、教えやすい。シンガポールは天然資源を持たない分、政府は人材教育に力を入れているが、そのため超学歴社会となっており、人々の基礎学力は高く、同時に競争心・向上心が強い。チャレンジ精神があるのはよいことだが、よりよい待遇を求めて転職する人が多いことは、日系企業にとって頭の痛い部分である。離職率の高い若手人材に何をどこまで教育するかは現地マネジメントの課題でもある。
以上、昨年訪れた5か国について思いつくまま記してみた。総じて述べたいのは、それぞれの国に異なる社会背景、文化、国民性があり、これを念頭に指導すべしということだ。よく日本の職場と比較をして他国の従業員にダメ出しをする日本人がいるが、そもそも社会の価値観が違うのである。そして、ホフステッドの6次元モデルに見られるように、単一民族かつ島国の日本の国民性は海外から見ればむしろ異質であることを日本人は自覚すべきであろう。決して日本の価値観を押し付ける指導ではあってはならないと思っている。
今年も海外での安全技術指導を予定している。その他の国の感想についてはまたの機会に綴ってみたい。
