北九州に単身赴任してもうすぐ3年になる。当初は撮り鉄活動で休日を楽しんでいた。しかし、今年春のダイヤ改正でメインターゲットとしていた国鉄時代の電気機関車(EF81、ED76)が定期運用を外れた。『休みに何をしよう?』、『運動不足でなにか健康に良いことがしたい』、『でも、あまりお金はかけたくない』と頭の中で浮かんだのが『山歩(さんぽ)』。バスケットボールをドリブルしながらシュートできないほど運動オンチな自分でも距離は歩ける。もともと山で囲まれた田舎で生まれ育ったので、山にも親しみがある。『よし、山へ行こう!』といったノリである。幸い北九州周辺には日帰りで山歩に適した山がいくつもある。
最初の山歩は福智山(900m)。北九州市・直方市・田川郡福智町にまたがる九州百名山で九州では人気の低山。スマホに登山アプリをインストールしてルートガイドとし普段着、運動靴でいつものリュックを背負い朝6時から登山開始。少し歩くと白糸の滝。岩場をロープに掴まりながら登っていく。息は上がるが空気がおいしい。還暦近いが見たこともない景色や生物に出会える。手のひらぐらいの大きさのカエル、臆病なヘビ(こっちもビックリ)、いろいろな昆虫に見たことがないキノコもたくさん。いつも何でも知っているようにふるまっているが、実は世の中のごく一部しか見ていないのだと自覚する。
また、一人歩きなので、いろいろなことが頭を巡る。仕事のこと、家族のこと、将来の自分のこと、過去の失敗、人から受けた恩恵などとりとめもない。普段と違う環境で自問自答しているうちにはや山頂についてしまった。360度のパノラマ。北は小倉や戸畑など北九州の街の先に玄界灘、東は周防灘、南は英彦山、西のふもとは遠賀川、直方の市街が見渡せた。
初めての福智山は午前半日の山歩。今では半日の山歩は物足りない。月2回ぐらいのペースで一日かけて英彦山、福智山をはじめとした北九州周辺の山々の尾根をつたってサミットをはしごする。距離にしておよそ20km足らずが標準になった。土の道、枯葉の道、がれ場、岩場、草むら、顔に絡まる蜘蛛の巣を払い、裸足になり沢を渡り、たびたび道に迷いながら尾根や谷をのぼり、くだる。山歩は何か人生そのもののようだ。単身赴任の締めには九州最高峰の宮之浦岳(屋久島)にチャレンジしたい。