「新時代を切り開く品質立国日本の再生に向けて~シンポジウム」に参加して

標記テーマを謳ったシンポジウムに都内某大学で参加した。日本クオリティ協議会(JAQ)が主催、戦後から現在に至るまで日本の産業界を牽引している5団体も共催しておりプログラムは主に次の4部構成からなる。

①13:30~13:50シンポジウム開催主旨説明「品質の仲間づくり:TQMを一緒に」若林宏之(日本クオリティ協議会会長、日本品質管理学会会長)

②13:50~14:50基調講演「常に存在する品質不正リスクへの対応ー品質を中心とする経営の実践ー」棟近雅彦(早稲田大学理工学術院教授)

③15:00~16:00特別講演「品質立国ニッポンよ、再び!」飯塚 悦功(東京大学名誉教授)、④16:00~17:20パネルディスカッション「品質の仲間づくりを起点にTQM再考」司会:廣野 元久、パネリスト:飯塚悦功、棟近雅彦、若林宏之、 佐藤吉治(品質工学会会長)

 

① 開催主旨説明「品質の仲間づくり:TQMを一緒に」では、公開された開催主旨に沿い内容を私流に解すと次のようになる。品質不祥事の増加により、日本の産業競争力が衰退していることを大いに懸念、シンポジウムで日本の国際競争力向上のために何をすべきかを議論し品質問題への反省を通し問題の芽を未然に防ぎたいと考える。これまで産業界が培ってきたTQMは「人間尊重」、「三現主義」、「顧客重視」、「全員経営」、「データ利活用」等の考え方に基づいており、今後の組織経営に極めて有効なものであり、データの活用やAI、品質のガバナンス強化、DX、品質管理の新技術への活用が大いに期待される。一方、技術の誤用や悪意のある攻撃等おリスクも存在する。これらを上手くコントロールするには、経営が主体となりマネジメントシステムを活用し、倫理と誠実さに基づくTQMの実践が必須である。 日本の競争力は世界に遅れを取っており、再び品質立国としてイノベーションを起こすには、それ相応の新たな行動と基盤を構築しなければならない。シンポジウムを通じ製品・サービスの質、人の質、組織の質、 経営の質について議論し、「新時代を切り開く品質立国日本の再生に向けて」戦略的かつ継続的な活動を行っていく覚悟である。~決意表明~

 

② 基調講演「常に存在する品質不正リスクへの対応ー品質を中心とする経営の実践ー」早稲田大学 理工学術院 教授 棟近雅彦

<講演要旨>昨今、品質不正の事案が継続的に発生している.産業界は,利潤を追求する活動を競争環境の中で行っており、人のプレッシャーに対する弱さもあり、品質不正が起こるリスクは常に存在する。したがって、一度策を講じればそれで終わりということはあり得ず、発生防止策、起きた場合の対処策を、品質マネジメントシステムの中に組み込み、継続的に改善していく必要がある。本講演で、品質不正リスクを低減させるための対応策について論じた。

 

③ 特別講演「品質立国ニッポンよ、再び!」東京大学 名誉教授 飯塚悦功

<講演要旨>1980年代半ば、日本は「品質立国日本」ともてはやされる経済大国になった。実はこれ、絶頂期の到来ではなく、成熟経済社会への移行の始まりだった。その後、日本の相対的地位は低下し、いまもって十分には回復できていない。かつての輝ける日本の再現のために現状をどう切り開けばよいのか。この考察は古き良き時代への懐古趣味的感慨でよいはずがない。社会・経済・産業の構造変化、日本の特質の理解に基づいて、品質立国日本再生のシナリオを語った。

 

④ パネルディスカッション「品質の仲間づくりを起点にTQM再考」では、司会と4人のパネリストが事前に準備された事例に対し、パネリスト各々が一歩掘り込んだ自分の考えで回答し議論した。例からキィワードを挙げると、不正のトライアングル、高いコンプライアンス意識、有効な組織的対応、システム設計、パラメータ設計、監査機能の再教育、TQMは不正、不祥事の防止に役立つか、経営の基本の再認識と充実にかけての取り組みその他であった。

 

【所感】数年前から「品質の仲間づくり:TQMを一緒に」の呼び掛けは、現代の企業に通じるのかという感があったが、考え方、言葉に接し、改めて心に響いた。日本の品質管理をけん引するリーダーに期待したい。棟近先生は現場をよく知りつくしており、管理者の意識とあり方に一石を投じていた。部下に「やっとけ」だけでは、起こりうる不祥事、品質不良の芽は摘まれず、経営トップが「不正はしない・やらない」姿を自ら示し、繰り返し、何度も何度も、教育、育てていくというあたり見事に捉えていたと思います。「品質立国ニッポンよ、再び!」特別講演の飯塚先生は、日本の競争力を落ちた現状を訴え、再生のために何が必要か、顧客への価値提供のプロセスを現在の日本の状況と照らし分析されてました。松下幸之助、本田宗一郎、ソニー井深大、シャープ早川徳次、京セラ稲盛和夫に続く正しい・強い信念を持った新しいリーダーの出現を是非見たいと思います。

(山岸優)